「家族なんだから、私がみなきゃ。」母は最後までそう言い続けました。認知症になった父を前にしても、その考えが変わることはありませんでした。今思えば、あの言葉は責任感ではなく、「他人に頼ることへの罪悪感」だったのだと思います。私は高齢者施設で働く者として多くのご家族と関わってきましたが、その原点には、私自身の家族の介護があります。今日は、認知症の父と、誰にも頼ることができなかった母の話をしたいと思います。介護は、本当に突然始まる父は仕事一筋の人でした。真面目で責任感が強く、家族のためによく働いてくれました。そんな父が、少しずつ変わり始めたのです。財布を何度も探すようになり、同じ話を繰り返し、約束を忘れることが増えました。「歳だから仕方ない。」母はそう笑っていました。でも、それは認知症の始まりでした。認知症は、ある日突然すべてが変わる病気ではありません。気づかないほど小さな変化が積み重なり、ある日「以前の父ではない」と感じる瞬間が訪れます。母は「他人に頼る」という選択ができなかった認知症が進行すると、父は一人でできないことが増えていきました。食事、着替え、薬の管理、通院。そして夜中に何度も起きる生活。それでも母は、誰にも助けを求めませんでした。「私がやればいい。」「妻なんだから当たり前。」「他人にお願いするほどじゃない。」そう言いながら、一人ですべてを抱え込んでいました。介護は休みがありません。365日、24時間続きます。母の睡眠時間は短くなり、笑顔は少なくなり、好きだった外出もしなくなりました。父の認知症だけではなく、母自身の生活も少しずつ失われていったのです。家族だからこそ、苦しい介護をしていると、周囲からこんな言葉をかけられます。「大変ですね。」(恥ずかしい気持ちが勝ってしまう)「無理しないでください。」でも、介護をしている人ほど、その言葉にこう答えます。「大丈夫です。」本当は大丈夫ではありません。それでも「大丈夫」と答えてしまうのです。家族だから。妻だから。娘だから。そんな責任感が、助けを求めることを難しくしてしまいます。介護現場にいる私、「母を説得できない」多くの高齢者やご家族と関わる中で気付いたことがあります。「もっと早く相談していれば。」この言葉を本当にたくさん聞いてきました。介護は、一人で頑張るほど苦しくなります。専門職に相談することは、「介護を放棄すること」ではありません。家族が家族でいられるための選択なのです。「頼ること」は、家族を守ること母は最後まで「他人には頼れない」と言っていました。でも私は、今ならはっきり言えます。頼ることは、弱さではありません。家族を守るための勇気ある選択です。介護サービスを利用すること。専門家に相談すること。数時間だけでも見守りをお願いすること。それは決して父を見捨てることではありません。家族が笑顔でいられる時間を取り戻すために必要なことなのです。